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《森の植物の歳時記》[52] 【カタクリ(片栗)】 別名:カタカゴ(堅香子)
【カタクリ(片栗)】 別名:カタカゴ(堅香子)
もののふの八十娘子(やそをとめ)らが汲(く)み乱(まが)ふ寺井(てらい)の上の堅香子(かたかご)の花
万葉集に一首のみ見られるカタクリを詠んだ歌です。大伴家持が越中守として現在の富山県高岡市あたりに赴任していた時に詠んだ歌とされています。
葉樹林の斜面に群生しますが、下草刈りなど、管理が十分にされないと消えてしまいます。近年、雑木林を再生させたらカタクリが咲くようになったという報告を聞きます。じっと地中で出番を待っていたものと思われます。
秋から冬に葉を落とす落葉樹林は、冬は明るい林床になります。早春、木々の開葉が始まる前の明るい林内で発芽、開花、結実、種子散布をします。葉が繁って暗くなる夏には地表には何も残さず、鱗茎(りんけい)(球根)で夏を越します。
春だけ姿を見せることからスプリング・エフェメラル(spring ephemeral)(春のはかない命)と呼ばれる植物の一つです。種から発芽して、小さい葉が地表に見えるようになるまでに2年、花を咲かせるまでに8年。何年も耐えてやっと花を咲かせるようになって、7~8年の寿命と言われています。はかなくもあり、したたかでもあるのがカタクリでしょうか。斜面を好んで育ち下を向いて花を咲かせます。花弁の中の模様は花それぞれに違っています。手鏡で覗いてみるのも良いですね。
廣畠眞知子氏(千葉県森林インスタラクター会会員、元千葉都市緑化植物園緑の相談員)