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《森の植物の歳時記》 [107] 【ナンバンギセル(南蛮煙管)】

道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ
万葉集 巻第10・2270番に見られる作者不詳の歌です。“思ひ草”と詠まれているのがナンバンギセルとする説が有力です。万葉集でナンバンギセルを詠んだとされている歌はこの1首のみです。
ススキに寄生しているのを多く見かけます。自らは葉緑素を持たず、栄養の全てを寄主に依存する一年草の寄生植物です。旺盛に育つと、時には、寄主を枯らしてしまうことすらあります。
名前は花の姿を喫煙具の煙管(きせる)に見立てたものとされています。
うつむき加減に咲く花の姿が“思ひ草”と詠まれ、何か秘めた恋、忍ぶ恋などを連想してしまいそうです。
0.2×0.3㎜という微細な種子で、秋に熟した果実からこぼれると、冬~春の間に寄主の根に付着して栄養をもらいながら発芽、成長します。
寄主はススキのみでなく、イネ(陸稲)、サトウキビ、ミョウガなどの栽培植物の場合もあり、生育が阻害されて、大きな被害が出たという報告もあります。
花色は赤紫色の濃淡や、稀ですが、白色も見られます。

廣畠眞知子氏(千葉県森林インスタラクター会会員、元千葉都市緑化植物園緑の相談員)