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《森の植物の歳時記》[63] 【カキツバタ(燕子花 杜若)】

【カキツバタ(燕子花 杜若)】

唐衣(からころも) きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞ思ふ

伊勢物語第九段、都を捨てた在原業平が名古屋三河国あたりの八橋で咲くカキツバタを詠んだ歌とされています。各節の頭文字をひろうと「か・き・つ・ば・た」となると話題にされる句です。
カキツバタが咲く季節になると、港区南青山の根津美術館で尾形光琳の燕子花屛風が公開されます。毎年ではありませんが、光琳の八橋図屏風がメトロポリタン美術館から里帰りして、一緒に展示されることもあります。美術館のお庭にカキツバタが咲きそろいます。
屏風に描かれたような群生する光景を目にする機会が少ないのが残念です。虫を呼ぶためと言われる外花被片(花びら)の白い筋がくっきり映えて、虫でなくても注目してしまいます。
アヤメがやや乾燥した場所を好むのに対して、カキツバタは湿地を好みます。八橋図屏風のデザインのように、八橋を渡りながら楽しんでいた光景が想像されます。

廣畠眞知子氏(千葉県森林インスタラクター会会員、元千葉都市緑化植物園緑の相談員)